お知らせ
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結婚して30年、子育ても仕事もひと段落し、ふと空いた時間に夫婦で話し合った。「たまには二人でどこか行こうか」。思い出したのは、20年前に訪れた神戸だった。まだ子どもが小さくて、慌ただしくも楽しかったあの旅。「また行きたいね」と言いながら叶わなかった約束を、ようやく果たすときが来た。神戸の街に降り立った瞬間、懐かしい風が頬をなでた。港町独特の開放感、石畳の路地、異国情緒あふれる街並み…。年月を経ても変わらぬ神戸の佇まいに、胸がじんとした。
旧居留地を歩くと、レンガ造りの洋館や洒落たブティックが並び、かつての面影を色濃く残していた。けれどその中にも、新しいカフェやレストランが増えていて、今の神戸を象徴しているようだった。そんな中、目に留まったのが『VINSEMBLE(ヴァンサンブル)』というモダンフレンチのお店だった。「ハンバーグとワインのペアリング?これはちょっと特別かもしれない」——予約を取った私たちは、今夜のディナーを楽しみに、北野坂をのんびりと歩いた。
夜、お店の扉を開けた瞬間、静かで落ち着いた空間が広がっていた。まるでパリの小さなビストロに訪れたような気分になる。案内された席に着くと、すぐに運ばれてきたのは、厳選された黒毛和牛のハンバーグとフォアグラのソテー トリュフの香りがふわりと漂い、ナイフを入れると中から肉汁がじゅわっと溢れ出す。一口食べた瞬間、夫婦そろって「…これはすごい」とつぶやいた。ワインはオーナーソムリエが選んでくれたスペイン産のカカオの香りのする濃厚な赤ワイン。まろやかで品のある味わいが、料理と見事に調和していた。
神戸の洋食には、どこか“語りかけるような温かさ”がある。今回のディナーで出会ったハンバーグは、まさにそれだった。私たちがかつて訪れた、あの小さな洋食店の味がふと蘇る。でもこれは、それとはまったく別物でありながら、根底に流れる“神戸らしさ”は変わらない。開港以来、異文化を受け入れてきたこの街の懐の深さが、料理にも現れている気がする。
食後のデザートに選んだのは、赤ワインとベリーのコンポート。香り豊かなコーヒーと一緒にゆったりと味わう。窓の外には神戸の夜景がほんのりと揺れている。「また来たいね」「今度は記念日じゃなくてもいいかも」夫のそんな一言に、私は心から頷いた。神戸は“特別な場所”から、“ふたたび訪れる場所”へと変わった気がした。
料理が美味しいだけではなく、空間も、サービスも、すべてが心に染みるひとときだった。ハンバーグという馴染み深い料理が、こんなにも贅沢に、上品に、そして豊かに感じられるなんて。旅の終わりに、私たちは静かに思った。「またこの一皿に会いに来よう」と。そして神戸という街が、夫婦の新しい思い出の1ページに加わったことを、心から嬉しく思った。
▶ ご予約・詳細はこちら:https://www.kobe-vinsemble.com/